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2023.07.07

瀬戸内刺繍美術館への想い

本年6月に開催されたオープンファクトリーイベントCRASSOにて初公開した瀬戸内刺繍美術館について、これまでの経緯と私たちの想いをご紹介いたします。ビジョンに向かうタナベ刺繡の小さな一歩を暖かく見守っていただければ幸いです。

2023年7月5日
株式会社タナベ刺繍
代表取締役 田部智章

刺しゅうの可能性を信じて

皆さまに支えられて、これまでタナベ刺繍は「刺しゅう」に取り組んできました。1969年(昭和44年)小さな借家から創業して50年以上が経ちますが、私が小さかった頃の一番多い思い出は黙々と刺しゅうという仕事に没頭する創業者の父・篤葦と母・澄江の背中です。そんな両親を見て子供ながらに刺しゅうという仕事を不思議に感じていました。

私がタナベ刺繍を引継いでからは、自社の社会的役割は何なのか、何のために刺しゅうをするのかを考えてきました。悩み、迷いながらも社会から必要とされる刺しゅうを模索し続けて、10年を過ぎたころにタナベ刺繍の社会的役割がようやく分かりました。それは、新しい刺しゅうを生み出し、人に驚きと感動を届けることです。この気付きが弊社の経営理念となりました。

それから新しい刺しゅうへのチャレンジは加速し、気づけば、憧れのファッションブランドや、衣装・舞台装置などのお仕事のご依頼もいただけるようになりました。このような素晴らしい仕事に関わらせていただけることは、本当に誇らしく夢のようです。そして、私の両親が信じた刺しゅうの可能性を実感できるようになり、これまで弊社に関わっていただいた皆さまと、日々驚きと感動の刺しゅうに取り組む社員、そして刺しゅうに生きることを選んでくれた両親に感謝しております。

 
新しい刺しゅうへのチャレンジ

最初のチャレンジは、レーザー加工と刺しゅうを組み合わせた新しい刺しゅうからでした。化繊をハサミで切るとバサバサにほつれますが、レーザーカットなら切り口が溶着してほつれない原理を使い、全て形が違う花にレーザーカットし、重ね合わせて刺しゅうで縫い付け1枚の生地にしました。この作品を発表すると大きな反響をいただきましたが、過去に例の無い刺しゅうでしたので、店頭からは何か問題が起こりクレームがくるのではと敬遠されました。しかし、今ではスタンダートな刺しゅうとして浸透しています。

他にも、刺しゅうを立体的に膨らませる技術や、スパンコール刺しゅう、プリントと刺しゅうの組み合わせ、物理的に難しい巨大な刺しゅうなど、全く新しい刺しゅうにチャレンジし続けて、もちろん多くの失敗もありながら、ひとつひとつ乗り越えることで刺しゅうの技術は深まり、その可能性は広がってきました。

そんななか、絵画や写真などを糸だけで表現するチャレンジがスタートします。もちろん、タナベ刺繍として取り組むのですから、自信を持って社会に提供できるレベルの品質が基準となります。最初はとてもお見せできる代物はできませんでしたが、研究を繰り返しながら少しずつ品質を高めて5年ほど経ち、この刺しゅうを採用していただいたブランドが世界的な賞を獲得したことで、この技術が日の目を見ることができました。

この出来事を切っ掛けに、「いつか作りたいと夢見た大作を、現在のタナベ刺繍なら実現できるはず。」という想いが込み上げてきました。絵画や写真などを糸だけで表現する研究をさらに続け、チャレンジから約10年経て、ついに夢見た製作期間約1ヶ月間の大作が完成しました。それが全て刺しゅうで再現した実物大のゴッホのひまわりです。

 
タナベ刺繡のビジョン

「いつか刺しゅうのギャラリーを持ちたい」と考えるようになったのは、今から10年前のこと、タナベ刺繍のビジョンを社員と一緒に話し合ったことが切っ掛けでした。ビジョンとは、新しい刺しゅうにチャレンジし続けたその先にある自社の理想の姿です。

社員とタナベ刺繍のビジョンについて語り合い、全国の刺しゅうやアートを愛する方々が気軽に立ち寄り楽しめる場所。私たちが作った作品を見てもらえる場所。刺しゅうの魅力を存分に味わっていただける場所。私たちが暮らすこの地域にそんな場所があれば、少しでも町を活気づけられるのではないか。これまでお世話になったこの地域に少しでも恩返しができるのではないか。だったらタナベ刺繍がその場所になろう、という結論に至ったのです。

このビジョンを描いてから10年掛かった本当に小さな一歩目ではありますが、瀬戸内刺繍美術館が多くの皆さまに足を運んでもらる場所になれるよう、新たなチャレンジに取り組んでまいりますので、どうぞご指導ご援助お願い致します。最後までご覧いただき誠に有り難うございました。

瀬戸内刺繍美術館 SETOUCHI EMBROIDERY MUSEUM
場  所:〒769-2604 香川県東かがわ市西村1023(株式会社タナベ刺繍)
開  館:平日(土、日、祝を除く)
開館時間:10:00~12:00、13:00~17:00
入  場:無料

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