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刺しゅうの糸調子について

刺繍加工を施す要素として「針」と「糸」があり、ここでは刺繍機に糸をセットする際の調整(糸調子)について深めます。

 

 

【1.縫い縮みとは】

機械刺繍の課題や問題としてよく挙げられるのが、縫い縮みによる生地や柄の変形である。(例として、5mmの幅でジグザグに縫う刺繍データを作成したのに、実際に縫った結果は4.5mmのジグザグ幅になる現象。)

 

これは生地に針を刺して縫うことを連続的に行って柄を描く場合、ミシンという機械を用いると「生地を移動させる」ことによって機械にセットされた糸(上糸及び下糸)に対して張力を発生させ糸を引き出すという、縫い縮みから逃れようの無い構造的な問題と言える。

 

この縫い縮みの度合いは、生地の移動距離(ステッチの幅・ピッチ)と移動速度(縫う速度・機械の回転数※)、機械にセットされた糸の引き出し易さ(糸調整)によってそれぞれの設定に応じて生地に対しての張力が決まり、最終的に張力の強さに応じて縫い縮みという現象が生まれる。

※ミシンの回転数は、1分間に何針縫うかで表される。

 

よって、この張力をいかに小さくできるかが縫い縮みを抑えるポイントになる。

 

 

【2.縫い縮みに繋がる張力の要素と解決】


  縫い縮みが大きい 縫い縮みが小さい
2-1 ステッチの幅 広い 狭い
2-2 機械の回転 早い 遅い
2-3 糸の調整 強い(きつい) 弱い(ゆるい)

 

それぞれの要素と縫い縮みの関係は上記の表。

 

2-1のステッチ幅はデザインに応じるので調整には限界があり、必要以上に広いステッチ幅を避ける一定の刺繍データ制作技術があれば、縫い縮みの解決方法としては順位が低い。

 

2-2の回転数によって縫い縮みが発生する原因としては、刺繍機の性能以上の回転数稼働による場合と、糸が引き出される速度が速くなることでの糸摩擦による抵抗の増加があり、どちらの場合でも検証が容易なため比較的解決しやすい。

 

2-3は、染色、ロット、組成、太さ等、様々な要素を踏まえながら、作業者が機械に上糸と下糸をセットする作業を行う中で「糸が引き出される強さ」を経験(勘)によって調整することで決定される。

 

よって、2-3の糸の調整による縫い縮みが発生した場合、作業者の判断(主観)で「糸が引き出される強さ」に対する認識の修正や、多頭機ではミシンヘッド毎のバラツキの許容範囲に対する作業者の認識を改善させることが、糸の調整に起因する縫い縮みを解消する手法となる。

 

しかし、ミシンのマニュアルや一般に流れている情報は、上糸と下糸のバランスをとることに主眼を置くものがほとんどで、「糸が引き出される強さ」そのものに関しての情報は非常に少ないか曖昧になっており、特に刺繍機の最適な糸調整は各社それぞれのノウハウや技術として公表されていないものと推測される。

 

 

【で、糸の調整はどうやればいいの?】

基本的な情報はインターネット上にもありますので、紹介しますね。

 

■手作りタウン:ミシンのしくみ ボビンの種類と糸の調整方法

糸のセットの仕方やポイントを図解付きで分かり易く説明しています。優しい表現の中にも真理とも言える解説がありオススメ。

 

家庭用ミシンであれば、使用する糸が制限されるもののマニュアル通りに調整すると大体は解決できると思いますが、我々刺繍のプロの場合、幅広い資材やデザインに対応する必要があり、この対応力が「腕」の見せ所で、工業用と呼ばれる刺繍機の自由度が高いのはこのためです。しかも完全に使いこなすには、ミシンを分解して組み立てる程の技術が必要で、時には改造も施します。

 

縫い縮みを無くすことはミシンの構造上不可能ですが、縫い縮みを小さくすることは可能ですし、どこまで縫い縮みを小さくできるのかが「刺繍のプロ」としての価値でもあります。

 

最適な糸調整を行う手順としては、こんな感じです。


1.ミシンヘッドと釜を適切に清掃する。

2.使用する素材やデザインに合わせた「釜のタイミング」に調整する。

3.必要最小限のテンションで下糸を調整する。

4.下糸を基準に上糸を調整する。

 

調整の手順としては簡単なのですが、一番重要なのは常に変化する糸の状態を、作業者が敏感に察知してその都度微調整を行うことですね。

 

●簡単な部分では、下糸の巻き加減ひとつでも糸調子は変わります。

 

タナベ刺繍では、このような50項目以上のポイントと対応方法をマニュアル化し、定期的に刺繍工場スタッフの勉強会も行う等、糸調子の研究も余念がありません!

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